クライスラーの奏法、ひとりよがりのヒント

クライスラーの奏法、ひとりよがりのヒントクライスラーのヴァイオリンの音色になんとしても近づきたいという思いは、薄れるどころかますます高まっています。クライスラーは弟子を一人も取らなかったため、その奏法は「彼独自、オリジナル、ユニーク、スタンダードな弾き方でない」とされていますが、アマチュアの私にはそんなことより、彼のような音色に一歩でも近づきたいわけです。

すべての演奏録音はもちろん、演奏や立ち姿の写真、伝記(ハルトナック著)、そして鈴木鎮一先生の残された奏法の考察、実際に演奏を耳にした演奏家たちの談話を頼りに、いろいろなヒントを集めて、自分なりにもいくつかの発見がでてきました。

そして、この数年は、身体のことを熟知したスポーツトレーナーの先生にも、クライスラーの写真や演奏映像を見ていただいて、クライスラーの身体や身体の使い方などをお聞きしながら、私自身もトレーニングを積んでいます。

ここには、独りよがりなところもありますが、備忘としていくつかヒントを記しておきます。少々マニアックなことでも、お分かりになる方、あるいはご意見をいただける方があると嬉しいです。

すべての弓の角度はG線寄り

―同じ弦でも弾く角度で音色が変わります。A線でもD線寄りの角度にすると、音色がいくらかハード、太いものになります。あるいは、弓をまっすぐでなく、E線寄りからG線寄りに、半円を描くようなイメージで使っていたようにも感じます。

―腕を上手に回内(尺骨と橈骨の)させて弾いているということでもあると思います。

―また、弦は当時はほとんどガット弦だったこともあり、クライスラーのE線は金属的な響きがまったくせず、柔らかく温かい音がします。弦だけでなく、奏法によるところも大きいと思います。

弓の軌道は駒寄り

―これは演奏を目にした人の証言としてたくさん残っていることですが、駒に寄せて、馬毛もわずかな範囲を使って濃厚な音を出しています。それは楽器を少し高く持ち上げて自然と駒に近づくように、幼少期の教師であるヘルメスベルガ―から指導されていた影響もあるようです。

ヘルメスベルガ―は、彼の生徒に出来るだけ駒の近くで弾くように奨めるのを常とした。(中略)ヴァイオリンを故意に誇張して高く持つことは、自動的に絶えず駒の側で奏くのに役立つ

チェロだと駒が弓より下側にあるので、自然と駒に寄れるのですが、このこともヒントになります。

(以下、書きかけです。)

弓は実は圧力をかけていない

―クライスラーはホールに響き渡る大きく太い音で知られていますが、弦に腕で押さえて圧力をかけていたでしょうか? 反対だと思います。これは一番、誤解されやすいポイントではないでしょうか。

弓の強い張り(弓の先端の張りをそのまま真ん中でも使える)

少ない省エネの弓使い

―これも数々の証言から明らかなことですが、クライスラーはあまり弓幅を使わずに音を出しています。つまりかなり省エネであるといえ、弦を鳴らすことに長けているということです。

―そのことを証明するエピソードとしては、こんなものがあります。フロリダのある町で演奏会前に、髭そりの石鹸の泡が弓の真ん中に飛び散ってしまいました。うっかりそのことを忘れて本番のステージに立ったところ、弓の中程で急に音が出なくなることに気づきました。しかしそのときは時すでに遅し、パガニーニのヴァイオリン協奏曲の序奏部がはじまり、観念したクライスラーは、

この難曲を、弓の中程を使わずに弾いたのである! その演奏があまりに完璧だったので、ある批評家は、弓の先端と根元だけを用いたこの演奏をパガニーニ演奏の新しい奏法だといって、彼を祝福したほどであった。(「フリッツ・クライスラー」(白水社)より)」

柔らかい指の腹、ビブラート(強く押さえるとビブラートできない)

根本的には脱力と胆田(音楽家であると同時に軍人である、乗馬は?)

―彼は第一次大戦にオーストリア軍に従軍し、ロシアとの戦線を経験しコサックの騎馬に襲われ、死亡説も流れるほどの怪我を負いました。軍人として、身体ももちろん鍛錬しており、軍服を着た姿は見事です。

呼吸

―はじめてクライスラーの録音を聴いた人は「ヴァイオリンなのに人が歌っているみたいだ」と口々に言います。バリトン歌手のような歌声に似ており、当時のアイルランド出身のテナー歌手マコーマックが「クライスラーのように歌えたね」と言ったというエピソードもあります。

実は歌い方もそうですが、呼吸にもヒントがあります。クライスラーは若い頃、演奏中の「鼻息」がうるさかったという話が伝記にも残っているほどで、奏法の上で見過ごせないテーマではと思います。

楽器(ガルネリウス)

―クライスラーはガルネリウスを好んで使ったとのことですが、楽器はわれわれではどうすることもできませんので、ここで記すのはナンセンスですね。